カテゴリー別アーカイブ: 回路・動作説明

ガンマ線: パルス分布(Poisson clumping)

ガンマ線ディテクタからの出力パルスを観測すると興味深い事が分ります。次の動画を見ると観測する時間によりパルスの分布が違って見えます。この動画はCs137のガンマ線を観測したもので、中央のパルスでトリガーをかけ、その前後の時間のパルスを表示しています。時間軸(X軸)の単位は、1格子あたり、前半では20msec,後半では10μsecです。

pulse_clumping
画像をクリックすると動画を表示します。

この動画で、前半の画面の観測時間は200msecでこの程度の長い時間で見ると、パルス分布に偏りはなくアトランダムに一様に分布しています。それに対し、後半の画面は0.1msecと短い時間で観測したもので、分布は明らかに右側に偏っています。右側に偏るということは原子核の崩壊は1回起きると続いて崩壊する事が多い事を示しています。また、崩壊する前は時間が開く事が多い事も示しています。
放射性の原子核の崩壊は完全にアトランダムに起きます。このCs137の例では、ある崩壊と次の崩壊の間に因果関係もありません。しかし、オシロスコープで見るパルス分布は一つの崩壊が次の崩壊のきっかけになっているようにも見えます。一見矛盾するようにも思えますが、アトランダムに起きる事象はこのような分布をするという事が数学的にも証明されています。このような偏りはPoisson Clumping(ポアソンクランピング)と呼ばれています。

ガンマ線: パルス検出回路

フォトマル(PMT)からの信号はガンマ線のエネルギーに比例した電流ですが、電流はパルス状であり、積分値を求める必要があります。その回路は次の図のようになっています。chargeamp2

実際に流れる電流はこの回路からフォトマルに向かう電流で、IC8のオペアンプに接続されたコンデンサ(C39)が充電され、電荷量に応じた電圧がIC8の出力端子に現れます。その電圧はIC5Bのバッファを通して、マイクロコントローラ(STM32F207V)内蔵のADコンバータに接続され、デジタル値に変換されます。AD変換が終了した後、コンデンサに並列に接続されたトランジスタ(Q2)によりコンデンサの電荷は放電されます。
IC5Aのオペアンプを含む回路はADコンバータのDNL(微分非直線性)を補正するための回路です。マイクロコントローラ内蔵のDAコンバータにより0-30mV程度の電圧を変化させながら、コンデンサの電圧に加算してAD変換します。そして、デジタル値から加算した電圧を引き算するという操作で、DNLを補正します。

実際の波形は次のようになっています。
フォトマルに流れる電流を観測したのが次の画像です。この画像はTP2における電圧を測定したもので、R25をショートした状態で観測したものです。このパルスでは最大10mA程度で減衰時間が1μsec程度です。

photo_current3

このパルスの大きさは元のガンマ線のエネルギーに比例します。Cs137の標準線源をフォトマルにくっつけて測定したのが次の画像です。この画像はパルスを画面上で積算したもので色によりそのパルスが生じた回数が分ります。緑や青は回数が少なく、赤からオレンジは回数が多い事を示しています。

cs1

Cs137の全吸収ピークに対応するパルスはオレンジで回数が多く、それより電圧が低くなると回数が少なくなり、コンプトンエッジに対応する電圧より低くなると回数が多くなるのが分ります。

次にTP1における波形は次の画像です。この波形はR25をショートしていない通常の回路のものです。

TP1

このパルスの立ち上がり部分は光電流によりコンデンサ(C39)が充電される事によるもので、立ち下がりはトランジスタ(Q12)による放電によるものです。500nsec毎に生じている小さなヒゲ状のパルスはADコンバータの変換によるもので、パルスのどの部分がAD変換されているのか分ります。
パルスの積分とAD変換の時間は約3μsecで、この時間がこの測定器のDead Timeになります。

ガンマ線: ADCのDNL補正(Sliding Scale Method)

チャージアンプの出力はADコンバータ(ADC)によりデジタル化されます。使っているADCはマイクロコントローラ(STM32F207VE)内蔵の12ビットADCです。一般にADCにはDNL(微分非直線性)と呼ばれる誤差がありますが、通常の用途ではあまり問題になりません。しかし、ガンマ線のスペクトルグラフを描く用途では顕著にその誤差が現れます。次の画像はDNLの補正をする前のCS137のスペクトルです。CS137_DNL補正なし(画像をクリックすると拡大できます。以下同じ)

この画像の一部分を拡大したのが次の画像です。CS137_DNL補正なし拡大このグラフを見ると、左半分では周期的にカウント数が変動しています。右側の全吸収ピークではカウント数が大きく上下しています。これらの不具合はADCの各ビットの電圧幅が一定でない事に起因します。良くあるのは隣合うビットで一方が幅が狭く、その隣のビットは幅が広い場合です。この場合ソフトである程度補正が可能です。その補正を行ったのが次の画像です。CS137_DNLソフト補正この補正で大分良くなりましたが限界があります。補正をより完全に行うにはハード的な対策が必要で、Sliding Scale Methodという方法があります。この方法はDAコンバータ(DAC)を回路に追加し、チャージアンプの出力とDACの出力をオペアンプで足し合わせて、AD変換し、変換されたデジタル値からDACの電圧を引くという方法です。DACの出力を0から数十テャンネル変化させれば色々な電圧幅のビットでサンプリングする事になり、結果的にDNLが目立たなくなります。この方法で補正したのが次の画像です。

CS137_DNLハード補正_この補正の効果は著しく、きれいなスペクトルが得られます。